睫毛の上の雫
過去へ。
2013年
・1月21日月曜日
「君のことは知ってるよ。」
まだ春には遠い1月の下旬、私はその人に出会った。
話すのは初めてだったが、私は彼を知っていた。
女子からの人気が高い彼は、同じ学部の3つ上の先輩で、華があるから目立っていた。
「え、どうしてですか?」
嬉しいのを隠して、困惑しているのを装い尋ねた。
「俺が荷物運んでた時、手伝ってくれたでしょ?」
「え、そうでしたか?あ、ドア開けました。」
「そう、それ。」
それは去年の夏のことだった。えらく重たそうなものを運んでいる人がいたから、ドアを開けた、ただそれだけだ。
あまりにも些細なことだから、彼だと気づいていても、記憶されるほどのものではないと思っていた。
ミシ、、、
ベッドのキシむ音がすると共に、彼が私を包み込む。
裸の体には、人の体温が心地よく浸透する。
「・・・ありがとうございました。」
「何それ。」
「いや、その、深い意味は」
「お願いだから、黙って。」
「・・・はい。」
話して初めての日、私は彼に抱かれていた。
それは私の初めてであり、彼にとっては複数の女の中の一人でしかなかった。