睫毛の上の雫
抱き締められたまま一時間が経過した。
今になって、部屋の作りに目がいく。ベッド、食器棚、テレビ、あっけらかんとしている。白で統一されてはいるが、何故かバラバラな気がする。
ふと、この状況の発端はなんだろうと考えたとき、昨日の事を思い出した。夜道は危ないから送ると言われて、何故か彼の家で話すことになって、気づいたらベッドの上にいた。
“大学生ってこんなものなのか。”
私はたぶん、理解できないことがあると無理やり理解しようとする癖がある。それがいいときもあれば、たまに良くない。
先ほどから部屋にある時計の秒針の音が、やけに鋭く私の耳を刺してくる。時刻は8時25分だった。
「あのー、そろそろ授業が始まるんですけど。」
返答が、ない。
「寝てますか?」
やはり返答はないと思っていたら、彼の細い指が私の首から尾骨までをツーっと通る。
「敏感だね。」
「やめてください。」
「俺さ、名前教えたよな?」
「はい。」
「呼んでみて。」
「たかつきさん。」
「そっちじゃねーよ。」
「まこと、、、さん。」
「うん、何、ゆか。」
初めて耳元で男性に自分の名前を囁かれた。
と同時に、赤面しているのが自分でもわかった。
それは彼の吐息というよりは、知り合って間のない人とベッドの上にいる状況が、どれだけ恥ずかしいことかを理解してしまったのだ。
私は物凄いスーピドで着替えて部屋を去った。