睫毛の上の雫
幸い授業に間に合い、講義を終えて、食堂へ向かっていた。
一人の時は無意味に携帯を触ってしまう。
でも、このときはそうもいかなかった。
頭のなかは、つい3時間ほど前まで一緒にいた男性の事で一杯だった。
細いがしっかりした体。
白い肌が色っぽく、黒髪がやけに似合う。
小さなお尻、細くて、でも筋肉があって。
あれ、おかしい。顔が思い出せない。
「はよせーや。」
その声で我に戻った私は、食券機の前でフリーズしていたようだ。
「あ、えっと、ごめんなさい。」
「ええから早よして。」
リュックを背負った栗色の髪の男の子は少しイラついているようだ。
申し訳ない思いで、適当にボタンを押して、私は去った。
はい、どうも。
そう言って、食堂のおばちゃんが出してくれたのはざるそばだった。
それを運んで、空いている席に座る。
一人の時はいつもこの席だ。
カフェにあるような脚の長いイス。目の前はガラスで、そこから見える景色には庭が広がっている。
天気がいいからか、庭で昼食を取っている人たちが何組かいる。
その中に彼がいた。