睫毛の上の雫
そうだ、あんな、顔だった。
鼻筋の通った、綺麗めな顔。伏し目がなんとも色っぽい。
私はあの人と寝たんだ。優越感に似たようなものが込み上げてくるが、彼の隣には女の人がいた。
少し離れた場所から見ていてもわかる、スカートの似合う女の人。同じ学部では誰もが知る、彼の元カノだった。
別れても仲がいいのは、彼らがまだお互いに想いあっているからだと、聞いた事がある。“自分とは一時の感情による火遊びだ。”と、朝から言い聞かせてきたのに、欲張りもしなかったのに、まるで見せつけられているような気がしてどうしよもない気持ちになってしまった。
彼らは笑って、穏やかに会話をしているようだった。
ざるそばが喉を通らない。
席を変えよう。
立ち上がろうとしたとき、隣の人が声をかけてきた。
「もしかして松川か?」
ふいに声の主を見ると、食券機の時の栗色の髪の男の子が私をじっと見ていた。
「、、、はい、松川ですけど。」
「おお!やっぱりそうか!え、めっちゃ久しぶりやん!わかる??俺やで?たかしやで!」
こんな関西弁の知り合いなどいないと思ったが、一人いるのを思い出した。
「・・・とばた?鳥羽田たかし?!」
鳥羽田は中学生の時に3年間片想いした男の子だった。
小学校の4年生の時に引っ越してきた彼とはそのまま中学校も同じだった。そのあとは私が引っ越しをしたため全く会ってなかった。正直、高校生の時も少しだけ尾を引いて好きだったかもしれない。
「おう!まさか、大学同じとはな!」
大きなたれ目にショートヘアの栗色の髪が、優しい男の子を演出しているように見える。だが、何分強い関西弁の口調でヤンキーのようにもとらえられる。鳥羽田の明るい性格は今も変わりがないようだ。
「てか、おい、気づけよ。俺はお前の後ろ姿でわかったぞ。」
「本当に?」
「ほんまやほんま。」
「なんだか、嬉しくない。」
「なんでや!?」
懐かしいことが嬉しいというのを、私たちはお互いに自覚し共有していた。