睫毛の上の雫
午後からの授業がたまたま同じで、そう言えば鳥羽田らしき人がいたような気がした。私のなかの鳥羽田は、背が低くく短髪で髪は染まってなどいなかった。この数年でどんな成長を遂げたのか、彼は178㎝にもなっていた。髪型もかわっているし、気づくのは難しいだろう。
「あのさー、この時間は一人なん?」
「うん。午前の授業、取ってる子が周りにいなくて。」
「そっか。」
鳥羽田はなんだかそわそわしていた。分かりやすさは昔と変わっていない。おまけに貧乏揺すりという癖をつけてしまっていたようだ。
「それ、やめたほうがいいよ。」
「え?」
「貧乏揺すり。」
「癖やねん。」
「だめ。」
私は彼の太ももを押さえた。
中学生のとき、自分の友だちが彼の事を好きだった。告白できずに終わってしまったのは、"応援するよ"と安易に口にしてしまった私が原因で、よくある話だ。
小学生のときに転校してきた鳥羽田は、メガネをかけた暗い男の子だった。三ヶ月ほどたっても、教室でぽつんと一人でいたから、好奇心のあまりに私は近づいた。"どうして一人でいるの?"私が問うと、彼は目に涙を溜めて、ぽつりぽつりと喋った。"友だちを作っても意味ないねん。また引っ越すかもせえへん。"鳥羽田は父親の転勤についていくしかない家庭環境だった。彼の言葉で悲しくなった私は、子どもながらに泣いてしまい、二人で泣きわめいた。泣き止まない二人に困った顔をしながら、理由を訪ねてくる先生がおかしくて、いつの間にか私たちは笑っていた。
それから私たちは仲良くなった。中学生になって、何か変な距離はあったが、それでも仲はよかった。恐らく二人とも何かを意識していたのだろう。
「あの時の鳥羽田は可愛かったなぁ。今じゃ貧乏揺すりのオッサンになっちゃって。」
「一生懸命、我慢してるけど、今度は右足が。」
「だめ。」
「はい。・・・移動する?」
「そうだね。」
食器棚に食器を運んで学食をでると、低い声が私を止めた。
「ゆか。」
彼だ。