睫毛の上の雫
一瞬、時間が止まった気がした。
「おはよ。」
彼はゆっくりと距離を積めてくる。
「おはよう、ございます。」
私は何も悪いことはしていない。
言葉は悪いかもしれないが、むしろこの人に色んなことを奪われた、とも言える。堂々とそこにいればいいのに、心臓が張り裂けそうなほど脈を打つ。
その反面、会えたことに喜びを感じている。
「どうした?そんな変な顔して。」
「・・・顔は生まれつきでして。」
横には鳥羽田がいた。
なんとなくだが、誤解されるのが嫌だった。
「えーと、幼なじみ、のような鳥羽田です。」
私が紹介すると、鳥羽田がぺこりと頭を下げた。
「どうも、幼なじみのような鳥羽田です。」
「もう、真似しないでよ。」
鳥羽田がクスクスと笑う。
先輩が私をずっと見ているのがわかる。なんだか胸が痛い。
「今から授業なの?」
「はい、そうです。」
「そうか。いっといで。鳥羽田、あんまりゆかをいじめんなよ。」
「うぃーす。行くで、ゆか。」
「へ、は、うん。」
私は振り返って手を少し上げた。
彼は柔らかく笑って、手を振ってくれた。
「サークルの先輩や。」
鳥羽田はぼそっと私にそう言った。