睫毛の上の雫
帰りの電車のなかで、LINEの友だちの欄を念入りに見ても、彼の連絡先はない。元々、昨日までは関わりのない人だった。サークルの先輩が、上と下との交流会を下宿生の部屋で開き、そこに彼は突然現れた。違うサークルを掛け持ちしていて、こちらのほうはほぼ幽霊部員だったようだ。
でも、人に好かれるタイプなのか、同期の人たちは彼のことをかなり迎え入れていた。
年下の私たちにとって、彼が同じサークルだったという事実は、歯が浮くような出来事だ。私たちだって受け入れないはずはない。
「俺も手伝うよ。」
こっそりと一人で片付けをしていると、彼が近づいてきた。
「大丈夫です。」
「・・・え。」
人見知りの私は、急に現れた人とはなかなか目を合わすことができない。即答すぎる態度が、彼にとっては予想外だったのだろう。
「手伝う。」
彼は片付けだした。するとそれに気づいた女の子達も片付けに参加する。なんてわかりやすいんだろう。
みんなに好かれる彼が、私はなんとなく嫌だった。
確かに顔は綺麗だし、スタイルもいいし、背も高い。色んな女の人が彼のことを好きになるだろう。そういう人種が羨ましいあまりか、私は好きになれない。
私は女の子にしては体は大きいし、かわいい顔つきではない。髪もショートヘアで、服装はズボンのほうが好きだ。どちらかというと物静かだが、喋りだしたら口調は強い。
「私、あっち行っています。」
台所に数人助っ人がきたので、私はリビングのほうに戻った。机を拭きながら、部長に終電がもうすぐだという嘘を伝えて、この空間から逃げだそうとした。
素直に嫌だったのだ。
キラキラした人たちに比べて、そうでない自分の存在が。
“終電がなくなるので帰ります。お疲れ様でした。”と言い、早々に部屋をでた。ドアが閉まる音が耳に残り、一人で歩く夜道の切なさを強調させる。
下宿を後にして道路にでると、彼の声が私を引き留めた。