奏―かなで―
何を想う
それからあたしは毎日毎日、歩道橋に通った。
来る日も来る日も綾瀬を探した。
だけど、1週間が経っても、1ヶ月が経っても綾瀬は来なかった。
「今日も来てない…かな。」
歩道橋の階段を上がりながら、あたしは音にならない声で小さく呟いた。
「今何してるの?
僕は歌ってるよ
君のためにボクらのために
僕は歌っているよ
この思いが 届くのならば
遠くから 僕だけを
いつも 見守ってて下さい…」
それは、19の「以心伝心」だった。
本来ならばハモるサビの部分は、やはり一人だと何か物足らない。
綾瀬の顔を見れば、すぐに分かった。
切ない横顔
苦しそうな声…
あなたは今、何を想う
誰を想って歌うの?
ねぇ、綾瀬…。
あたし、苦しいよ…。