奏―かなで―
あれから3年、あの歩道橋は渡っていない。
あたしは今日も地上を歩いた。
巨大ビジョンを、なんとなく見上げる。
『今、若者の間で話題になっているairが、ついにメジャーデビュー!
切ないメロディーに切ない歌声、全ての世代に聴いて頂きたい一曲です。airで「行く」。』
ギターの柔らかい音で始まるそれは、どこか懐かしい。
ぼやけた画面には、椅子に座ってギターを弾く青年と、リズミカルにベースを操る青年が映っていた。
歌が始まると、次第にその輪郭がハッキリと現れる。
プヮーン‥
遠くでクラクションが鳴ったのを最後に、あたしの耳には一切の雑音が聞こえなくなった。
『君の傍に行こうとすれば
いつも何かが邪魔して…』
何で…?
『そんなに僕が嫌いかい?
愛を誓ったはずだろう…』
何で…。
『曇った世界が澄み渡ったのは
君が笑ったからだよ
君が笑えば虹も出る
ほら、君へ続く道
そうさ、僕は今行く…』
何でよ…。
何で綾瀬がテレビに出てるのよ…。
何でぇ…?