奏―かなで―

どうにか面接が終わり、帰ろうとしたときだった。

「詩花。」

後ろから声がして振り返ると、そこには綾瀬が立っていた。

ばつが悪くて、あたしは苦笑した。

「ごめんね、勝手に受けちゃって…。びっくりした?」

「びっくりした。」

はは、やっぱり…

「お前の歌に。」

「…え?」

「歌詞…も、なんつぅか…、響いた。」

照れ臭そうに髪を掻き上げながら、詰まり詰まり、言葉を紡いでくれる。

そんな綾瀬を、この上なく愛おしいと思った。

「久しぶりだった…。
歌詞に、歌に…鳥肌立ったの。」

嬉しくて、夢みたいで。

相槌も上手く打てないあたしは、頷く代わりに微笑ってみせた。

「もう…あいつ以上のボーカルには逢えないと思っ…」

言い掛けた綾瀬はハッとして言葉を飲み込んだ。

「いや…、とにかく、airのボーカルは詩花にやってほしいと思った。…やってくれるか?」

綾瀬の言葉が気に掛かった。

彼の、届かない歌と“あいつ”

胸の苦しさは増すばかり。

だけど…

「うん。」

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