奏―かなで―

「もうすぐリハ始まりまーす!」

スタッフの声で我に返り、顔を上げて涙を拭った。

「…今から歌う曲は、綾瀬が初めてairとして作った曲なんだ。
作詞も作曲も、綾瀬がやった。」

じっと、亮平くんを見つめる。

「だから、大切に歌ってほしい。
…綾瀬になりきって、綾瀬の想いを歌ってほしいんだ…。」

綾瀬になりきって…。

彼女への、溢れんばかりの想いを…。

届かなかった声を…。

あたしが。



目を閉じる。

スゥッと、心が落ち着いていく。

胸に空気をたっぷりと入れて。

あたしは亮平くんを見据えた。

互いの意志が交じり合い、あたしは照明が眩しいステージの上へと向かった。

< 29 / 38 >

この作品をシェア

pagetop