奏―かなで―
立ち止まったあたしに気付いたのか、彼はギターを弾きながらチラリと見上げた。
柔らかく微笑み、すぐにまた視線をギターへと落とす。
指は、滑らかにギターを奏でていく。
繊細な音、綺麗な歌声…。
深い、深い、海の底から、ぼんやりと差し込む光を見ているような錯覚に陥りそうになる。
歌を聴いて、こんなに胸が苦しくなったことは、未だかつて無かった。
歌詞は心の葛藤を表しているのに、彼はひどく愛おしそうに歌うから。
胸が、張り裂けそうに苦しかった。