甘いペットは男と化す
1章 拾いモノ
「え?明日もダメなの?」
《ごめん。多分明日も出勤しないとマズイ状況になっちゃったから……》
電話越しから聞こえる、
もう聞きなれてしまったキャンセルの言葉。
「そっか、わかった……。うん、じゃあね」
本当は全然分かってなんかいない。
キャンセルの言葉を言われたのは、これで3回連続。
もうすぐ1か月会わないことになる。
電話の相手は、付き合って3年になる彼。
3年という長い月日になったせいか、毎日のように電話をすることや、メールを頻繁にすることなんかない。
お互いに年も年だし。
「はぁ……」と深いため息を吐くと、携帯を鞄にしまい、再び歩を進めた。
北島 朱里(キタジマ アカリ)。26歳。
アラサーに向かい、毎日平凡な毎日を送り中。
と言っても、付き合って3年となる彼氏がいるせいか、結婚への焦りなんかとくにあるわけでもなく、彼ももう29歳ということから、きっとこの人と結婚するんだろうなぁ…なんて思っていた。
「ただいまー」
誰もいない真っ暗な部屋に着いて、パチンと廊下の電気をつけながら一言。
すっかり習慣になってしまった帰宅の挨拶だ。
帰ってくるはずのない返事に、長いブーツを脱ぎ捨て、さっさと中に入った。
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