甘いペットは男と化す
「そろそろ出よっか」
「あ、うん……」
あれから、ほとんど無言のまま1時間。
ケイはじっと、あの奥の席を見つめたまま、何かを考え込んでいるようで、ハッと我に返って口を開いた。
「ごめん。つき合わせちゃって」
「ううん、大丈夫だよ」
その言葉から、結局記憶が戻ることはなかったんだと悟った。
「外、寒そうだね」
会計をしながら、ドアから見える外を見ると、暗くなっているせいか余計に寒そうに見える。
あたしの言葉に、ケイはにこっと微笑むと、
「じゃあ、また手を繋いで帰ろう」
左手を差し出してあたしの手を待った。
もう、あたしの中に、跳ね除けるとか拒むとか、そんな発想はなくて……
ただなんとなく、このままだとケイがどこかに行ってしまいそうな不安に駆られながら、差し出された手に自分の手を重ねた。
「アカリ」
「何?」
「今日も一緒のベッドで寝ていい?」
「あ、…っと……」
「ダメ!」って即答するはずの答えに、なぜか思うようにその言葉出てこなくて
あたしの予想外の反応に、ケイも少し驚いて目を見開いていた。