甘いペットは男と化す
 
その行為に、腹がたったのは事実だけど、でも助かったと思ってしまう自分もいた。


自分の所在も分からない今は、持っている現金は手持ちのお財布の中身だけ。
ざっと見たところ、3万以上は入ってるけど、さすがに入院費までは払えなかった。


「……ちっ…」


病院を出て、思わず舌打ち。

これからどうしようかと、さ迷い始めた。



自分が住んでいる場所も分からない。
だから退院したって、どこに行ったらいいのかも分からない。

途方にくれながら、これからどうしようかと頭の中で考えた。


そして気が付いた。

自分の頭の中に、唯一入っている記憶のことに……。


ふっと浮かんできたのは、一つのマンション。

ごくごく普通の……小柄なマンション。その205号室という数字。


住所は言えないのに、なんとなく足がそっちのほうへ勝手に進み、それがマンションへ向かっているんだと自分ですぐに分かった。

抵抗なしに足が進み、やがてたどり着いた頭の中に思い浮かんだマンション。


マンションはオートロック式だったけど、オートロック解除の数字の前に行けば、指先も覚えているのか、9191と押せた。

そしてしっかりと閉ざられていた自動ドアが、開いた。
 
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