甘いペットは男と化す
 
目的の205号室にたどり着くと、なんだか急に懐かしくなった。

ずっとここに何度も来ていたような……
もしかしたらここに俺が住んでいるのかも……?


そんなことを思いながら、インターフォンを押してみたけど、そこからは何の反応もない。
ためしに回してみたドアノブも、もちろん鍵がかかっていて回らない。


自分が持っていた鞄を漁ってみたけど、鍵なんて所持していなくて、これ以上どうすることも出来なかった。


じゃあ、ここは俺の家というわけではない?
それか単純に鍵を忘れたとか……。


どうすることも出来なくなって、ドアにもたれかかるように座り込んだ。


「………さみぃ…」


声とともに漏れた、白い吐息。

季節は真冬。
しかも今日は、いつにも増して寒いらしい。
このまま雪が降るかもとか、担当の看護師が言ってたな……。


怪しまれても、これ以上どこに動いていいのかも分からなくて、ただじっとその場に座っていた。


暗くなればなるほど、寒さも増し、
寝不足というわけではないけど、だんだんと眠くなっていく感覚に陥る。


いっそのこと、このまま眠って目を覚まさなければいい。
自分が誰かも分からないまま生きるのだったら……。



気づけば本当に意識を手放し
その代わり、なんだか温かい夢を見ている気がした。
 
< 107 / 347 >

この作品をシェア

pagetop