甘いペットは男と化す
目的の205号室にたどり着くと、なんだか急に懐かしくなった。
ずっとここに何度も来ていたような……
もしかしたらここに俺が住んでいるのかも……?
そんなことを思いながら、インターフォンを押してみたけど、そこからは何の反応もない。
ためしに回してみたドアノブも、もちろん鍵がかかっていて回らない。
自分が持っていた鞄を漁ってみたけど、鍵なんて所持していなくて、これ以上どうすることも出来なかった。
じゃあ、ここは俺の家というわけではない?
それか単純に鍵を忘れたとか……。
どうすることも出来なくなって、ドアにもたれかかるように座り込んだ。
「………さみぃ…」
声とともに漏れた、白い吐息。
季節は真冬。
しかも今日は、いつにも増して寒いらしい。
このまま雪が降るかもとか、担当の看護師が言ってたな……。
怪しまれても、これ以上どこに動いていいのかも分からなくて、ただじっとその場に座っていた。
暗くなればなるほど、寒さも増し、
寝不足というわけではないけど、だんだんと眠くなっていく感覚に陥る。
いっそのこと、このまま眠って目を覚まさなければいい。
自分が誰かも分からないまま生きるのだったら……。
気づけば本当に意識を手放し
その代わり、なんだか温かい夢を見ている気がした。