甘いペットは男と化す
内容なんて覚えていない。
ただ温かくて、優しくて、楽しくて……。
俺は「誰か」と平穏に暮らしている。
これは俺の記憶?
じゃあ、俺が待っているのは、その「誰か」か?
ふとよぎった、一つの名前。
「サキ」
「サキ」という人が、俺がずっとともにいた人なのだろうか……。
それじゃあ、この部屋の主は、「サキ」?
きっと帰ってくる主の顔を見れば、全部思い出せるはず。
たとえ思い出せなくても、相手が俺を受け入れてくれるはず。
だから……
早く……
「あのっ……」
聞こえてきたのは、一人の女の声。
すでに寒さで体が固まってしまった俺は、ゆっくりとその声の主へと顔を上げた。