甘いペットは男と化す
だけど俺の淡い期待は虚しく、彼女の顔を見ても全く覚えがない。
それは彼女も同じようで、俺の存在にただ困っている。
「また……振り出しか……」
じゃあ、この場から立ち去らなくちゃ。
そう思っていたのに、俺の体は予想以上に寒さでやられていて、気が付けばそのまま意識を手放していた。
目を覚ましたら、温かい部屋の中の、温かいベッドの中。
病院で目を覚ました時と全く同じ感覚なのに、ここだと人の温もりに包み込まれている感覚になった。
起き上がると、自分ではない人の気配を感じて、その方向へとゆっくりと向かう。
ソファーの上に、気持ちよさそうに眠っている、彼女の姿だった。
その姿を見て、自分のさっきの行動を思い出し、すぐに申し訳なくなった。
だけどそれと同時に、見ず知らずの俺に、ここまでしてくれる彼女が愛しいと感じてしまった。
記憶がないからこそ、こうやった人の優しさに弱いだけなのかもしれない。
それでも今、俺の頼りは彼女だけで……
「しばらくここに居させて」
どうやっても、彼女の傍から離れたくないと思った。