甘いペットは男と化す
10章 最初で最後の一夜
「ただいまー」
いつもより、少しだけ遅い時間。
1時間ほど残業をして、家に帰った。
いつもなら、ドアを開けるとすぐに、子犬のように飛びついてくるはずのケイの姿はなくて、不思議に思いながらブーツを脱いだ。
「ただいま」
「あ……おかえり。アカリ」
ケイは、今あたしが帰ったことに気づいたようで、あたしの姿を見るとハッとした顔をした。
「ごめんね、遅くなっちゃって」
「ううん、大丈夫」
それでも飛びついてくることはなくて、なんだか少しだけ物悲しい気分。
そう思ってしまうのは、完全にケイのペースに呑まれているという証拠。
「ご飯、簡単なものしか作れないと思うけど、和食と洋食どっちがいい?」
「アカリ」
「は?」
意味の分からない返しに、コートをハンガーにかけながら振り返った。
だけど振り返ったすぐ後ろには、いつの間にかケイが立っていて、あたしを後ろから抱きしめる。
「アカリが食べたい」
そう言って、あたしの顎を捕えてキスをした。