甘いペットは男と化す
 
「……すみません!あたしもあの席でお願いしてもいいですか?!」


きっとあの席は、ケイの記憶の手がかりになる何かがあって、怖いけどどうしても知りたかった。

すがるようにお願いするあたしに、ウェイターさんは困惑の眼差しを向けていたけど、結局そこの席へと案内してくれた。


「こちらへどうぞ」
「ありがとうございます」


案内された席は、なんとも言えないほど可愛らしい席だった。


もともとお店全体が、クローバーがモチーフにされているから可愛いけど、そこは特別席といっていいような温かい場所で、カップル専用にしている意味がよく分かった。


ここまで案内してもらって、さすがに悪いと思ったので、紅茶とシフォンケーキを注文し、辺りを見渡していた。

そしてテーブルの上のノートに気づく。


「これ……」


おそらくそれは、この席に座った人が自由に書ける日記みたいなものだった。


ケイも昨日来たというのなら、ケイの筆跡があるのだろうか…。
そう思い、最新のノートを手に取ってページをめくってみたけど、昨日の日付で書かれているコメントは、カップルらしき3組のコメントしかなくて、ケイの手がかりは何もなかった。


そうこうしているうちに、注文していたケーキと飲み物が届く。


「あの……」
「はい?」
「これって、この店がオープンしたときから置いてあるんですか?」
「はい。こちらの5冊がすべてとなっております」
「そうですか……。ありがとうございます」


ウェイターさんはぺこりとお辞儀をして、その場から離れて行った。
 
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