甘いペットは男と化す
「早苗!」
そこには、綺麗な黒髪を背中の後ろまで伸ばした、ぱっちりネコ目の彼女。
あたしの同期にあたる一人だ。
「今日の夜空いてる?久々に飲みに行こうよ」
「あ、うん……」
「じゃ、7時目標でよろしく」
「はいー」
そしてそれだけ言って、フロアへと戻っていった。
「すみません、矢代さん。
今何か言いかけませんでした?」
「え?あ……はは……。また今度でいいや」
「そうですか?」
再び矢代さんへ向き直った時には、なぜか落ち込み気味の彼になっていて、その様子にハテナマークを浮かべる。
矢代さんは、肩をガクッと落としたまま、フロアへと戻っていった。
これがあたしの今の日常。
会社での出来事がすべてで、たまに学生時代の友達と遊んだりもするけど
彼氏もいないし、好きな人もいない。
ただ会社に行って、仕事をして、仲のいい人たちとランチをしたり飲みに行ったり……。
前となんら変わりないはずなのに
なぜか心の中は、ぽっかりと穴が開いた気分だった。