甘いペットは男と化す
 
神崎さんの後ろにもう一人いると思ったその彼は……



「…………ケ…ィ……」



もう二度と、会えないと思っていた彼の姿。


嬉しさも
感激も忘れて

ただただ茫然と彼を見つめる。


その視線に気づいて、ケイも顔を上げた。

だけど……


「……」


顔色一つ変えない。

ただあたしの顔をちらっとみて、すぐに逸らした。



「では、今度はこちらがお伺いいたします」

「あ、りがとうございましたっ……。お気をつけておかえりくださいませ」


神崎さんもケイも、そのままエレベーターに乗り込んでしまい、矢代さんに見送られて姿を消す。


慌てて頭を下げたけど、あたしの心臓はありえない速さで動いている。

それと同時に、胸がどうしようもないほど痛い。



あたし……
ケイに無視されたの……?



確かに合わさっていた視線は、
何の合図もアクションもなく外された。
 
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