甘いペットは男と化す
非常口の階段を使って、五階から一階へと降りた。
エレベーターを待っている時間がもったいなくて、ただ必死に駆け下りた。
今ここで追いかけないと、なんだか一生後悔してしまいそうな気がして
追いついても追いつかなくても、今は彼を追いかけたかった。
「……ィ………ケイっ!!」
「……?」
駅まで行く道、
ようやくさっき見たばかりのシルエットを見つけて、
息絶え絶えながら必死に叫んだ。
その声に気づいて、二人の人物が振り返った。
「君は受付の……」
答えたのは、一緒にいた神崎さんのほうで、ケイはやっぱり不思議そうな瞳であたしを見つめている。
(だから彼も、思い出したと同時に、朱里と過ごした日々を忘れて……)
早苗の言葉を思い出す。
それを提示させる他人の瞳。
その瞳を見ていると、言いたい言葉はたくさんあったはずなのに何も言えなくて……
喉まで出かかって、再び奥へと消えてしまう。
「………すみません、神崎さん。
先に戻っていてくれませんか」
だけどケイが、一緒にいた神崎さんにそう促した。