甘いペットは男と化す
背を向けた瞬間、堪えきれず涙がじわりと瞼の上に浮かび上がり、
瞬きをすれば大粒の涙が零れ落ちそうだった。
誰が悪いわけでもない。
だけど今は、思いきり泣き叫びたい。
誰の目にも触れず……
子どものように……。
「待って」
そんなあたしの背中に、静かな声で制止を促す声。
ピタリと足が止まった。
すでに涙目になった状態で振り返ることはできなくて
地面に足がへばりついてしまったかのようにただ立ち尽くす。
後ろから、ケイがコツコツと近づく足音だけが聞こえた。
「俺と君は……
記憶を失っていた時の知り合い?」
何も分かっていない言葉は
残酷な意味をもつだけ。
いつ出逢ったのか、それすらも知られていない。
真後ろに来たケイは、何も答えないあたしにさらに言葉を続けた。
「もしかして……
深い関係になってた?」