甘いペットは男と化す
 
その言葉に、ゆっくりと振り返った。


涙をこぼすことなく、彼を見上げる。
じっと捉えた丸くて大きな二つの瞳。


その瞳は、あたしの知っているケイと全く変わらない。


もし「そうだ」と答えたら、彼は困るだろうか……。
あの日記に書かれていた【沙樹】さんを裏切ることになるのだろうか。


困らせたいわけじゃない。

だけどほんの少しだけでいいから……
あたしを好きだったことがあったことを思い出させたかった。


「……」


何も答えないでいるあたしに、ケイは悟ったようで
一瞬だけ困った顔をした。


あ、困らせた……。
否定…しなくちゃ……。


そう思って、口を開くと、




「………だとしたら……ごめんね」





彼は一言謝った。


ニヤリとほくそ笑んで……。

 
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