甘いペットは男と化す
12章 冷たい背中
 
5階について、エレベーターを降りた。


「北島さん!」


自分のオフィスがある場所まで歩いていくと、名前を呼ばれて顔を上げた。

そこには、矢代さんが受付の椅子へと座っていて……


「よかったー。今、一組お通ししたよ」
「あっ…すみませんっ……」


事態に気づき、慌てて駆け寄った。


そうだ。
今、菅野ちゃんはお昼休憩中なんだから、あたしが席を外しちゃいけなかったんだ。

仕事中なのに、私情であんな取り乱して……。


「大丈夫?」
「え?」


場所を交代しようとした手前、矢代さんがあたしの前髪をかきあげた。

途端に露わになる自分の顔。


「目、真っ赤だけど……泣いた?」
「…っ」


カァッと赤くなって、慌てて顔を下げた。


「だ、いじょうぶです。ちょっとあくびをしただけですから」
「ならいいけど……」


矢代さんもあたしから手を離すと、ようやく受付の場所から離れ、デスクの前へと回った。
 
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