甘いペットは男と化す
「知り合い?」
「え?」
「村雨景くんと」
「あ、いえ……。そんなんじゃ、ないです……」
知り合い……。
そう聞かれれば、きっと答えはNOだ。
あたしが知っているのは、記憶をなくしたケイ。
ケイが村雨なんていう名字だったということすらも知らなかった。
ダッフルコートを着た、子犬のようなケイは
スーツを綺麗に着こなした、スマートな大人の男の人だった。
「そっか。
ねえ、北島さん」
「はい?」
「今度飲みに行こうよ」
「え?」
突然の誘いに、戸惑いながら顔を上げると、矢代さんはにこにこと微笑んでいる。
「今の北島さん、すげぇ暗いから。
俺といたら、毎日明るい時間を過ごせるよ?」
「そう、ですね……」
確かに、矢代さんは社内でも面白いと有名。
飲み会の幹事になることも多いし、彼の周りにいる人たちはいつも笑っている。
あたしだって例外じゃなかった。
「じゃあ、今度早苗とかも……」
「ううん、二人で」
「え?」
「そういうつもりだから。考えておいて」
それだけ言うと、矢代さんは言い逃げるかのようにフロアへと戻っていった。