甘いペットは男と化す
 




「何飲む?」
「えっと……ハイボールで」
「ん。生とハイボール」

「かしこまりました」


初めての矢代さんとの飲み。

少しだけ緊張して、何度も席を座り直した。


「でもこんなに早く、一緒に飲みに行ってくれるとは思わなかった」
「すみません。なんだかがっついてるみたいで」
「ううん。俺としてはすげぇ嬉しい」


結局、飲みに誘われたその週末に、あたしは今、矢代さんと飲みに来ている。


こんなあたしを、二人きりの飲みに誘ってくれた理由は、ハッキリ言ってまだ分からない。
単純に、元気のない後輩を励ますための飲みかもしれないし、
この前早苗が話していた通り、元気のない受付嬢のせいで、外部とのやりとりに影響して、それを戻すための意味かもしれない。


それでも今、あたしには男の人と面と向かって関わることが大事だと思った。


「単刀直入に言うとさ、
 北島さんが今元気のない原因って……付き合ってた彼?」

「え?」

「ほら。昔から付き合ってる人いるでしょ」

「あ……いえ、そんなんじゃないです」


一瞬、それが何のことを言っているのか分からなかった自分は最低だ。


きっと矢代さんが言っているのは、淳史のこと。
 
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