甘いペットは男と化す
 
あれから数日が経って、ケイがあたしの前に現れることもなく、矢代さんもあからさまにアタックをかけてくることもなかった。


だけどそんな矢先、
エレベーターが開いて、見慣れた人がオフィスへと入ってきた。


「お疲れ様です」
「北島さん」
「はい?」


現れたのは、外出先から帰ってきたであろう矢代さん。

いつも通りの「お疲れ様です」という一言だけで終わると思いきや、少し怖い顔をしてカウンターの前に立つ。
隣に座っている菅野ちゃんも、何事かとじっと矢代さんを見上げていた。


「どうしたんですか?」

「村雨くんと、どういう関係なの?」

「え?」


一瞬、村雨という名前を聞いて、本気で分からなかった。

自分に村雨という知り合いなんていただろうか。


「村雨景だよ。ビレッジレインの」
「え?あ……」


そこまで言われて、ようやくそれが、ケイの名字だと分かった。

だけど、どういう関係だと言われても……



「今日、そこの会社に行ってきたんだけどさ。
 帰り際、彼が追いかけてきたと思ったら……」



(矢代さんって、アカリのことが好きなんですか?)



「そう聞かれたんだよ」

 
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