甘いペットは男と化す
タクシーに乗ってしまえば、20分弱で家に着いて、
タクシー代をケイが払うと、そのまま一緒に降りた。
ここまで来てしまえば、うじうじしているのも嫌で、さくっとマンションの中へ入る。
いつもの階段を上がって、奥の部屋へと向かって、鍵を差し込む。
エアコンの効いていない部屋は寒くて、すぐにエアコンのスイッチを入れた。
「……なんかごめんね。みっともないとこ見せちゃって」
くるりと振り返って、わざと明るくケイにふるまう。
ケイは無表情のまま、あたしを見つめている。
「まさか二股かけられていたとはなぁ……。いつからだろう」
「アカリ」
「なぁに?」
「いいよ。無理しなくて」
「無理してないって」
べつに無理なんかしていない。
悲しいし悔しいけど、不思議と涙なんかでない。
きっと察していたからかもしれない。
最近の淳史が、あたしとの予定をキャンセルし続けていたのは、決して仕事が理由なんかじゃない。
あたしよりも優先したい人が、いたということに……。