甘いペットは男と化す
14章 名前
「朱里せんぱーい!」
「あ、菅野ちゃん。おはよう」
「おはようございます!もー!早く言ってくださいよぉ」
「は?」
朝から、出勤した途端、ハイテンションの菅野ちゃん。
そのテンションについていけず、ただ首をかしげた。
「矢代さんですよ!いつの間に、そういう関係になっていたんですか?」
「え……」
矢代さん、という名前を聞いて戸惑ってしまった。
つい、ケイとのことがあって、頭から離れてしまったけど、あたしは昨日、矢代さんに失礼なことをしたことになる。
「二人で飲み会からタクシーで帰るとか……。
上司の前でやりますねぇ」
「いや、あのね、菅野ちゃん……」
「いつからなんですか?」
「おはよう」
キャピキャピとした菅野ちゃんの後ろから、落ち着いた声。
その声にはっとして、一緒に振り返った。
「おはよう、ございます……」
「おはようございます、矢代さんー!」
戸惑いながら挨拶をするあたしに、含み笑いをしている菅野ちゃん。
だけど当然、矢代さんも複雑そうな笑みを浮かべていて……
「北島さん、今日一緒に帰れる?」
「……はい」
その意味は、あたしたち二人にとって決して明るい誘いではないのに、
菅野ちゃんだけは「きゃー!」と勝手に盛り上がっていた。