甘いペットは男と化す
 
「無理。泣けない!
 だって泣きたくなるほど悲しいわけじゃないし」



ドキドキと高鳴っていく自分に嫌気がさして、パッと顔をそむけた。

体を離したくても、ガシッと掴まれているせいで逃れられない。


ケイはあたしの答えに少しだけ困惑した瞳を浮かべると、



「じゃあ……

 アカリが泣けるまで、傍にいる」



ひらめいたかのようにニコリと笑った。


「え……」

「それに、彼と別れたんだったら、俺がここに居座っちゃいけない理由はないでしょ?
 アカリの傍にいて、アカリが寂しくないようにする」

「ちょ、ちょっと待って!」


確かに、彼氏が嫌な気になるという理由で、ずっとケイがここに居座ろうとしていることを拒み続けていた。
その彼氏と別れたとなると、ほかに理由がなくなってしまうわけでもあるけど……


「やっぱ無理だって!」
「なんで?」
「だってその……
 一応、あたしとケイ、男と女でしょ?
 付き合ってもないのに一緒に住むなんて……」


きょとんとした顔立ちから、だんだんと曇っていく表情。

信頼していたご主人様に、捨てられた子犬のようだ。
 
< 19 / 347 >

この作品をシェア

pagetop