甘いペットは男と化す
「ごめんね、遅くまで付き合わせちゃって」
「いえ。あたしもやることありましたし」
結局、あたしたちが業務を終えたのは8時過ぎ。
矢代さんに、7時から会議が入ってしまったこともあり、こんな時間になってしまった。
「隠れ家的なバーがあるんだけど、そこでいい?」
「はい」
このまま、歩きながら話すのも確かにあれだし、あたしは矢代さんに勧められるがままのバーへと向かった。
「何にする?」
「じゃあ……ジントニックで」
「了解」
平日の中日ということもあって、お客さんはそこまでいなかった。
カウンターの端へと座り、矢代さんがバーテンダーさんに注文をしている。
そして居酒屋とは比べ物にならない綺麗な二つのお酒が、カウンターの前に差し出された。
「乾杯」
「乾杯……」
チンとグラスを合わせて、一口口にする。
お酒の味もしっかりしていて、さすが本格的なお店……なんて思った。
って、そんな悠長なことを考えていられない。
お酒のおいしさに、つい忘れがちになってしまったけど、そろろそ本題に入らないと……。
あたしは、何気ない世間話をしている矢代さんの言葉を止めて、彼の名前を呼んだ。