甘いペットは男と化す
先に立ち去ろうとしたケイの背中に、父親らしき人が呼び止めると、ケイはめんどくさそうに振り返った。
「覚えてるだろうな?
今度の日曜日の見合いの話」
「……」
思わず、あたしのほうが反応しそうになった。
お見合い……?
ケイが?
「カナリヤのご令嬢とのお見合い話だ。
決して悪くはない」
カナリヤ社と言えば、あたしも名前くらいは知っている。
女性服の一有名ブランドの会社だ。
「分かってるだろう?
たとえこの見合い話を蹴っても……」
「分かってるよ」
何かを言いかけた父親に、ケイが吐き捨てるように言葉を遮った。
父親はそんなケイの反応を見て、「ふん」と鼻で笑いながらケイの横を通り過ぎる。
「遅れてくるなよ。
1時にパークホテルだ」
そして、ケイが呼んだエレベーターに乗り込み、姿を消した。