甘いペットは男と化す
 
威厳をもつ父親がいなくなった瞬間、


「あっ……」
「?」


バサバサと、持っていた資料を床に落としてしまった。
その音に気が付いて、ケイが振り返る。


「…アカリ?」
「あ……ごめん。盗み聞きするつもりは……」
「じゃあ、聞いてたんだ。今の話」
「あ……」


しまった……。
自分で墓穴を掘ってしまったことに後悔する。


「お見合い……するの?」
「うん」


こうなったら、隠す必要もないので堂々と聞いた。
だけど返ってきた言葉は、ためらいもない一言。


「じゃあ……いい人、だったら……結婚とかも考えたりするんだ?」

「うん」


ズキン……と、胸が痛くなった。


張り裂けそうなほど、しくしくと痛み、言葉がうまく出てこない。


「愛とか…俺にはないって言ってるのに?」

「……べつにいいでしょ。
 それにアカリには関係ない」


突き放される言葉に、さらに胸が痛んだ。
 
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