甘いペットは男と化す
「村雨景です。
こちらこそ、こんな可愛らしい方とお知り合いになれて光栄です」
あたしの知っているケイからは想像のつかない、優しい声。
後ろ姿だから分からないけど、きっとその顔は、あの営業スマイルのように微笑んでいるに違いない。
留美さんは、そんなケイを見て、頬を赤く染めて見惚れているのが分かった。
あの容姿で、軽く微笑まれたら、きっと誰でも見惚れるのは間違いない。
だけど素性を知っているせいか、あたしにはその笑顔は嘘くさくにしか見えない。
「景くんは、まだ23歳だったっけ?
娘はこう見えて、25歳でね。年上女性は大丈夫かい?」
「はい。でも年など関係ないと思ってます。
仕事においても、結婚相手においても」
「それはいいことだ」
ケイが23歳だということも、今初めて知った。
あたしよりも年下だと思っていたし、それくらいだとは想像ついていたけど、今まで知らなかったことに多少のショックを受けている。
確かにあたしは、ケイの素性を知っているけど、ケイのことを何も知らないんだ……。
「それに僕は、確かに年齢においては若いかもしれないですけど……
自分の立場を分かっていないような、子どもではありませんから」
そう言ったケイの声が、なぜだか悲しく胸に響いた。