甘いペットは男と化す
「おいっ……」
「っ……」
だけど逃げるあたしをケイは追いかけ、化粧室へと続く細い廊下を曲がったところで手首を掴まれた。
「なんでこんなところにいるの?」
「そ、れは……」
意地悪な声は、呆れ交じりの声。
ゆっくりと視線を上げると、薄茶色の丸い瞳があたしをじっと捉えている。
さっきの優しいケイはどこへ行ったんだか……。
物腰が柔らかい口調に、さわやかな笑顔。
(自分の立場を分かっていないような、子どもではありませんから)
全てを諦めてしまったような……
大人のふりをした子ども……。
「まさか、見合いを邪魔しに来たの?」
じっと見つめる表情のない瞳。
だけど瞳の奥を覗き込めば、小さく揺れ動いている。
「……そう、だよ……」
まるでそれは、誰かに救いを求めているかのようだ。