甘いペットは男と化す
予想外の言葉に、ケイは目を丸くさせる。
「……何言ってんの?自惚れ」
「だって言ったじゃん。
記憶を失ってた時のこと、ちゃんと覚えてるって。
あたしを好きだったってことも」
「だからそれは……」
「たとえそれ以前の自分の決意を思い出したとしても、そう簡単には感情なんて消えないはずだよ」
強気に言い放たれる言葉に、ケイも口をつぐんだ。
確かに自惚れだ。
ケイがあたしを、今でも好きでいる確証なんてどこにもない。
性格が変わってしまえば、好きなタイプだって変わってくる。
だけど、ケイが自分に素性を見せてくれるということは
あたしにだけは心を開いていると信じたいから……。
「この先ずっと、自分の気持ち押し殺して生きていくの?
結婚生活も……仕事も……。
なんでその年で、何もかも諦めようとしてんの?」
「……」
「あたしは諦めない。
もうアラサーだし、世間があたしを見る目が変わってきてるかもしれないけど……
譲れないものだけは、絶対に諦めない」
こんなの、ただの綺麗ごとだ。
ケイに出逢う前までなんか、譲れないものなんかなかった。
だから妥協する人生ばかりだった。
だけど今、
自分を押し殺しているケイを、このまま見過ごすことが出来ない……。