甘いペットは男と化す
 
きっと、自分の、ケイに対する気持ちが譲れないんじゃない。

ケイがこのまま、偽りのまま生きていくことが嫌なんだ。
 

だから……



「………景さん?」



後ろから聞こえた、か細い声。

振り返ると、そこにはさっき見た、お見合い相手の女性が立っていた。


ここは化粧室へ続く廊下。
だから当然、人が通る。


「お知り合いですか?」

「あ……」


留美さんは、きょとんとしながら交互にあたしたちを見やる。

その様子から、おそらくあたしたちの会話は聞こえていないようだ。


急に戻された現実に、あたしも我に返って一歩後ろへと下がった。


一歩下がった理由は、彼女が思っていた以上にずっと綺麗だったから……。

遠目からでは分からなかった、女性としての魅力。
髪の毛一本一本、手入れされたサラサラな髪。
白く雪のような肌。

とてもじゃないけど、25歳には見えない。


何やってんだろう、あたし……。
なんか自分がバカみたいに思えてきた。



「……ということだから、帰ってくれない?」



顔を伏せた頭上から、冷たい声が投げつけられた。
 
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