甘いペットは男と化す
「記憶なんか、失わなければ、アカリのこともセーブ出来てた。
ほんと……皮肉だよな……」
頬を重ねられている手は、温かく優しいのに
見つめる瞳は、儚げで悲しい。
胸の奥がツンとした。
「だから記憶が戻った時、アカリのことは忘れようとした。
そのために、もう自分が恋愛を出来なくなるよう親父と復縁して、会社を継ぐことを決心した。
どうせ自分から縁を切ったっていったところで、親父が一人息子の俺を手離す気がないってのは分かってたし。
だったらもう、何もかも諦めて、仕事だけの人間になろうって……。
べつに仕事は……嫌いじゃなかったしな」
何もかも諦めていると言いながら、やっぱりその顔は苦しそうだった。
あたしと再会した時のケイは、
確かに最低で最悪な言葉ばかり吐いて
あたかも自分が最低な男であると主張していた。
きっとそれは、あたしがケイのことを諦めさせるためで……
あたしは頬に重ねているケイの手に、自分の手を重ねた。
「……諦めない、で……」
もうこれ以上、
この人に我慢なんてさせたくなかった。