甘いペットは男と化す
 
「ケイ」


伏せられてしまった瞳に、もう一度名前をきっぱり呼ぶと、
ゆっくりと上げられる視線。

絡み合った瞳は、苦しそうで……
でもやっぱり、救いを求めているようにも感じた。



「俺が……アカリを好きになったのは、記憶がないまっさらな時だ」



揺らぐことのないその瞳に、期待していた言葉とは違う返事が返ってきて胸が痛んだ。

握り締めていた手を離そうとしたら、
その指はゆっくりとあたしの唇をなぞる。



「だけど……

 好きだった気持ちは、今も消えない」


「…っ」



困惑が含まれた、微笑。

好きになりたくないのに、好きになってしまったことの悔いがあるのかもしれない。


それでも、今そうやって答えてくれたのなら……




「あたしも……

 あの時のケイも、今のケイも大好きだよ」




これから起きる、どんな障害も
乗り越えていこうと決心した。
 
< 233 / 347 >

この作品をシェア

pagetop