甘いペットは男と化す
「駅行くんでしょ?」
「あ、うん」
「じゃあ、行くよ」
外出帰りのケイも、当然これから電車に乗って自分の会社へ戻る。
いや、もしかしたらいつもはタクシーを使っているかもしれない。
けど、あたしに合わせて電車に乗るのかも。
次期社長ということを思い出して、そんなことを考えていた。
「次はいつなの?」
「それはまだ……」
「北島さんっ……!!」
ふと後ろから聞こえた声。
名前を呼ばれたことに振り返ると、そこには英会話教室から飛び出ててきたであろう相内先生がいた。
「携帯っ、忘れてましたよ!」
「あっ……」
相内先生が握る右手には、あたしの携帯らしきものが握られていて、
授業終了後、受付を待っている間にソファーに置いてしまったことを思い出した。
「すみませんっ……」
「いえいえ」
慌てて駆け寄るあたし。
相内先生は携帯をあたしに渡すと、顔を上げた。
連れがいたことに気づき、頭をさげようとしたんだと思う。
だけど……
「…………景……?」
かすかに聞こえた言葉。
それは紛れもなく、ケイの名前だった。