甘いペットは男と化す
 
結局その日は、本当に激務で終わった。

いつもは、二人で回していた総務と受付の仕事を、この一週間、菅野ちゃんは一人でほとんどやっていたらしい。
だから当然、終わり切れない仕事が後ろ倒れして、溜まりに溜まった仕事たち。

菅野ちゃんは、先週頑張ってもらったため、ある程度の時間になったら帰ってもらい、あたしは終電ギリギリまで仕事をこなしていたのだ。


……そういえば、社長から何も呼び出しがなかったな……。


絶対に呼ばれると思っていた社長室。

忙しいのか、社長が不在なのか……
よく分からないけど、社長に呼ばれることはなくて……


「あ、北島」
「お疲れ様です」


終電も近いので、帰ろうとした矢先、上司に呼び止められた。


「例の件だが……」
「あ、はい……」


フロント前ということもあって、声のトーンを落として話す上司。
ほとんど人も残っていないので、とくに会議室に呼び出すこともなく、この場で話すつもりだ。


「今のところは保留にするそうだ。
 向こうの社長さんが、何か考えがあるみたいでな」

「え?」

「詳しいことは、俺は知らん」


それだけ言うと、上司も帰るのか、さっさとエレベーターへ乗り込んでしまった。
 
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