甘いペットは男と化す
「北島さん?」
「あ……矢代、さん……」
社長室から歩いていると、矢代さんと対面した。
「どうしたの?何か元気ないみたいだけど……。社長室?」
「いえ……なんでもないです」
「……本当に?」
さっと横を通り過ぎようとしたら、その腕を掴まれた。
覗きこまれた二つの瞳。
ケイと違って、真っ黒な切れ長の目。
「ほ…んとうですから。
気にしないでくださいっ……」
あたしは、半ば強引に手を振り切ると、駆け足でその場を去った。
矢代さんが純粋に心配してくれているのは分かってる。
けど、今ここで、自分が振った相手を頼るわけにもいかない。
あたしは、決して平和では済まないと分かっていながら、自分の意思でケイとの道を選んだんだから……。