甘いペットは男と化す
21章 手切れ金
 
「おはようございます」
「……ほぉ…。また逃げ出して、もう来ないかと思ったぞ」


俺の挨拶に、右の口角だけ釣り上げて嫌味を言う父親。
その唇は、まだ赤みが残っていて、少し腫れあがっている。


俺だって、昨日はもう来ないつもりで親父を殴った。
だけどそんな子供みたいな考えは、よくないと気づかせてくれたから……。


「昨日は殴ってすみませんでした。
 今日からまた、よろしくお願いします」


深々と、下げたくない頭を下げて、親父という社長に謝罪をした。

俺のそんな態度に、親父は目を丸くさせている。


「では、今から取引先へと行ってきます」
「……どうやっても無理だと思うが。明日までにあと4件契約を取るのは」
「分かってるよ。でもそんなこと、関係ないから。
 俺がやりたいのは、自分が言ったことを、最後まであきらめないこと」
「……」


先を急ごうとする俺の背中に、釘を刺すような言葉。
だけどそれには一切動じず、今の自分の真意を話した。


「契約がとれたところで、親父がアカリのことを認めてくれると思ってない。
 だけど認めてもらう努力をしてもらうことが大事だって、教えてもらったから」

「……」


アカリがいたから、自分の考えが変わった。

アカリに出逢えていなかったら、俺は自分を押し殺していたか、親父にまた反発して、行方をくらましていたかもしれない。
 
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