甘いペットは男と化す
「アカリっ……」
立ち尽くしていた背中に投げかけられた名前。
驚いて振り返ると、そこには駆けてきたであろうケイがいた。
「今、親父の車らしきものが見えたんだけど。
もしかしてアカリのところに来たの?」
「……うん…」
「なんでっ……。………まさか……!?」
父親が彼女のもとに来た理由を悟って、ケイもハッとした表情をする。
だけどそれには、首を振った。
「ううん……。ただ、ちょっと嫌味を言われただけ……。
大丈夫だよ」
「そっか……。よかった」
手切れ金のことではないと分かって、ケイもほっとしたような表情を見せてあたしを抱き寄せた。
「ちょっと……ここ、住宅街だよっ……」
「いい。見たいやつには見せておけ」
「こらっ……」
ケイはあたしの言葉なんか気にせず、ただぎゅっと強く抱きしめていた。
不安に感じているのはあたしだけではない。
またいつ、相内先生の時のようなことが起きるかと怯えているのはケイのほうで……
「大丈夫……」
あたしはまだ、バカなふりをする。