甘いペットは男と化す
「とりあえず、家に入ろっか」
「あ、いや……今日は帰る」
「え?」
こんな時間に家に来たのだから、当然家に泊まるのかと思ってた。
だけどケイは、ハッとしたように抱きしめていた腕をほどく。
「今日は報告にしに来ただけ」
「報告?」
「結局さ……。契約、10本取れなかったんだ……。8本止まり」
「あ……そっか…」
契約10本とは、ケイがお父さんと交わしていた条件。
あとから聞いたけど、もし1か月で契約を10本取れたら、あたしの会社には口を挟まないと約束したらしい。
だけど結局、ケイのお父さんは、約束の期日より前に、あたしの会社の社長に嘘を言って、あたしを退職に追い込んだけど……。
「やっぱダメだなー……俺」
自分をあざ笑うかのようにけなしていた。
「でも8本取るって、すごいことなんじゃないの?」
あたしは営業のことはよく分からないけど、よく新規契約を1本とれただけでも営業の人は喜んでいたりする。
普通なら、1か月で3本取るのすら難しいはず。
それなのに……
「でも、今回は10本取らないとダメだったんだよ」
ケイは悔しそうに笑った。