甘いペットは男と化す
 
「辞めることになったのは、本当は自分の意思なんかじゃないんだろ?」
「……はい」


誰にも本当のことを話していない、会社を辞める理由。

ただ、心機一転したいという理由で、辞めるとしか話していない。


だけど矢代さんだけは、分かってくれていた。


「でも今は、もっといい道を見つけられたので」
「みたいだね。前よりもいい顔になってる」


真っ直ぐと答えるあたしに、矢代さんも微笑んだ。


「あたし……ケイの隣にいたいんです。引っ張られるとかじゃなくて……お互いに手を取り合えるような……」
「……うん」
「だから無力なままじゃいけないんです。周りからも認められるような人間にならないと」


空を見上げて、星を掴むように手を伸ばす。

その星が、ケイであるかのように……。


「だからちょっと、頑張ってきますね」

「うん。頑張れ」


矢代さんはそんなあたしに喝をいれてくれた。



ありがとう。
この会社で一番感謝したい人。
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