甘いペットは男と化す
本当は、あたしがビレッジレインの秘書として採用されてすぐに、このマンションから引っ越す予定だった。
だけどケイが名古屋の支社長を任されるまで、あと半年。
あたしもケイの秘書として採用されているのだから、当然半年後に名古屋へと転勤になる。
その半年のために、引っ越しをするのもどうかと思い直し、結局あたしは引っ越しをすることをやめてしまった。
「やっぱり寂しいね。こことバイバイするのは」
確かにこの部屋は、ケイと相内先生が暮らしていた同じ部屋かもしれない。
だけどこの部屋を通して、あたしとケイが出逢うことができたのなら、やっぱり嫌な気持ちだけではないから……。
「じゃあ、ここから名古屋まで通う?」
「それは無理だよっ」
「俺も無理」
分かっていながらもそんな会話。
お互いに「無理」と言い合って、玄関のカギを管理人さんに渡した。
「今までありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ」
そしてオートロックの扉をくぐり、マンションとお別れをした。