甘いペットは男と化す
その声が、あまりにも儚くて、その手をはねのけることなんか出来なかった。
「なんか……ちょっと考え込んでたら怖くなっちゃって……。
記憶のない俺って……いったい、誰なんだろうとか……」
「……」
ケイは普段、あまりにも無邪気だから……
いつも笑って、楽しそうにあたしに接するから……
だから気づけなかった。
記憶喪失という恐怖を……。
「ケイ……」
抱きしめられる腕に、そっと自分の手を添えて、口を開く。
「あたしが知っているのは、記憶を失ってからのケイだよ。
だから……今のケイは一人ぼっちなんかじゃない。
あたしがあなたを知っているから」
「……」
その言葉を聞いて、ケイはぎゅっと抱きしめている腕の力を強めた。
その力は、こんな可愛い顔をしているケイからは想像できないほどで……
自分とたいして背丈が変わらないと思っていた体も、実は自分よりも全然大きいんだと気づかされる。
「アカリ……。
ずっと俺の傍にいて」
「………うん…」
無神経だと分かっていても
今のケイを突き放すことは出来ないと思った。